「市場価値」という幻想

就活生向けのキャリア支援の面談やセミナーをかれこれ6年ほどやらせて頂いていますが、成長意欲があり、キャリアに前向きな学生さんがよく使うランキング第一位の言葉は、タイトルにもある「市場価値」だと思います(極めて個人的な統計です)。

これは6年間ずっと変わっていません。

「キャリアは自己責任で」という考えを普及させたい国や大企業、転職市場での求職者の価値を高め転職を促したい人材業界のニーズなどもあってか、「市場価値」という言葉がどんどんメディアで頻出するようになっていると思います。

マーケットにおける自身の価値を意識してキャリアを考えるのは極めて妥当な判断であることは間違いないです。衰退業界に身をおいてしまうと雇用はなくなりキャリアの選択肢が限られるのは自明なので「市場価値」を求めたくなるのは当然のことだと思います。

しかし同時に、優秀な学生さんとお話する中で「市場価値」を上げることだけがキャリアや仕事の目的となってしまっていることへの危機感やもったいなさも感じます。

「市場価値」という完全に自分の外で決められるものを追い続ける先にあるのは、人の評価だけを気にし続けるキャリアであり人生です。人の評価に敏感になるのに反比例して、自分の好きや楽しいといった好奇心の感度は失われていきます。

コーチングをしていると、社会的には確実に評価されそうな経営者やエリートビジネスパーソンの方が、周りの評価を得ることだけに邁進して、全く自分のやりたいことがわからなくて辛いという状況にしばしば直面します。

「市場価値」を追求するキャリアとは、キャリアにおける満足や幸せの要件を完全に他者に委ねている状態です。そこに比較や優劣が発生する以上、どこまで行っても上には上がいるため、永遠に満足に至りようがない茨の道であり完全な無理ゲーと言って良いでしょう。

加えて「市場価値」というものはなんとなく判断される極めて怪しいものだということです。

市場価値に絶対的な基準なんて存在しません。募集企業のニーズや面接官によっていくらでも評価は変わりますし、所詮数回の面接で人が評価するものなので、バイアスやブレやムラも多分に発生します。

もちろん沢山の企業から高い評価をされやすい経験やスキルを持つ求職者は存在しえますが、あくまで傾向でしかなく絶対的なものではないことを理解しておくことが重要でしょう。

価値の多様化が進む現代においては、よりマーケットでの評価軸も多様かつ複雑になるはずです。ますます「市場価値」の定義が流動的になっていく以上、「幻想」とも言える市場価値だけにこだわるのでなく、自分の好奇心を育てることに向き合う方が遥かに豊かで満足のいくキャリアに近づくはずというのが僕の考えです。

好奇心とは損得や良し悪しといった基準ではなく「なんかよくわからないけど、○○をするのは好きで楽しい」といった非常に主観的なピュアな感覚です。

「市場価値」をはじめとする他者評価ばかりを重視していると、好奇心は心の底に押し込められてどんどんわからなくなっていきます。

ぜひこの記事を見てくださった学生さんや社会人の方は「市場価値」だけを追い求めるのでなく、好奇心を軸にした仕事選びに向き合ってほしいなと強くい思います!

もしやりたいことが全然はっきりしてないという状態なら、一旦成長しそうな業界に身を置き、そこから自分の好きややりたいことを育んでいくという戦略でも大方良いと思いますが、その中で会社を選ぶ際には、ぜひ市場価値ではなく好奇心を軸に選んでみてください。

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